PICK UP

2023.06.06

Fashion-Ryoku Vol.59 ファッションの裏技拝見「TOKYO BRAND PICK UP」RequaL≡(リコール)デザイナー/土居 哲也さん

服の中に宿すべきは、知的好奇心をくすぐるもの

 

 

 2021年春夏シーズンから東京コレクションに参加している「RequaL≡(リコール)」は、見る人をわっと驚かす大胆なシルエットや誇張されたモチーフ、ボリュームたっぷりのポップなスタイリングが持ち味のユニセックスウェアブランド。毎シーズン、遊び心あふれるアプローチで、ファッションデザインの可能性、楽しさを体現してくれる頼もしい存在だ。デザイナーの土居哲也さんに会うため、アトリエを訪ねた。

<PROFILE>

Tetsuya Doi
岡山県出身。東京モード学園、文化ファッション大学院大学、ここのがっこう、meで修学。2016年、RequaL≡として活動開始。2019年、イエール国際モードフェスティバル審査員特別賞受賞。2020年、TOKYO FASHION AWARD受賞。2022年、ベストデビュタント賞受賞。
Instagram:@re_qual_

 

■ファッションを志したきっかけは?

 幼稚園時代、小学校の体験入学があったのですが、僕だけ隣学区の幼稚園で違う制服を着ていたので、みんなから好奇の視線を浴びたんです。自分の装いを意識した初めての体験でした。中高は私服校だったので、今日はアメカジ、今日はモード、今日はエスニック…と毎日いろんなファッションを楽しんで着るようになりました。それから、ビジュアル系ロックバンド「ジャンヌダルク」を初めて聴いた時、見た目も歌声も男性なのか女性なのか分からなくて、すごく魅力的なジェンダーを感じたんです。本当に稲妻が走ったんですよ。「この人を追いかけよう」と地元岡山を飛び出して、東京モード学園でファッションを学ぶに至ります。

 

■どんな学生生活でしたか?

 

 東京モード学園在学中に通っていたファッションスクール「ここのがっこう」で、デザイン画を酷評されて不登校になってしまったんです。服作りに対する劣等感やフラストレーションがどんどん溜まってきて…そんな気持ちをぶつけようと挑んだコンテスト「装苑賞」でイトキン賞を受賞しました。自信を取り戻して、ここのがっこうへ行くと「この作品良くないから他にやりたいこと書いてきて」と講師のミキオさんに言われ、もう何をやったらいいか分からなくて、ジャンヌダルクのヤスさんの絵を描いたんです。そしたら「この絵いいよ、アルマーニみたいじゃん」って。でも当時の僕はアルマーニの良さが全然分からなかったんです。それがまた悔しくて、だったら良さが分かるまでやってやろうと、アルマーニのテーラーを再構築した服を作ってみたんです。このオマージュ行為が徐々に自分のオリジナリティーを形成して、リコールの服作りに繋がりました。そして挑戦した「イエール国際モードフェスティバル」では審査員特別賞を受賞。それがきっかけで「東京ファッションアワード」を受賞して、21年春夏に東京コレクションデビューを果たしました。

 

■ブランド名の由来は?

 

 時間に対して常に等しいものづくりをしたいという意味が込められているんですけど、僕はガラケー世代なのでメールのやりとりを重ねると件名に「Re:」がどんどん増えていくのが時間の記号に思えたんです。「Re:」に対してイコールで、リコールです。

 

■服作りのこだわりは?

 

 最近特に意識していることは、自分の着たい服であり、着ると魅力的な気持ちになれる服であること。服の中に宿すのは知的好奇心をくすぐるものであってほしいし、単純な消費だけで服を作っていたら僕は多分潰れると思う。学生時代に感じていた「この服いいでしょ」って感覚を、ようやく自分で作り出せるようになってきたんです。今はそれが楽しいですね。

RequaL≡ 2023 A/W Collection

 

 

■リコールのコレクションは毎回客席から笑いがこぼれる楽しいルックが印象的です。

 

 いかに見せるかを大事にしつつ、常にものづくりであることも大事にしています。何が「普通」か常に考えていますし、考えた結果普通じゃないものも出来上がります。王道のコレクションを作りたい時もあるんですけど、ものから溢れ出る面白さみたいなのが好きなんだと思います。

(写真左から)
1. これまでに発表したコレクションやアワードなど、リコールの軌跡をまとめたポートフォリオ。思わず見入ってしまうアートブックのような装本に土居さんのセンスが光る。
2. 岡山県児島でダメージ加工とハンドペイントを施し、経年劣化を忠実に再現したアランニット。

(写真左から)
3. しつけ糸がアクセントの「チムニー(煙突)ハット」は、カンカン、ボーラー、ウエスタンの3種を展開。
4. コレクションでは大きなボタンをモチーフにしたバッグや帽子、ベストなどが多数登場した。

 

■今後の目標は?

 

 世界中の人たちにリコールを届けて、誰かを笑顔に幸せにしたい。お客さんが全くいないところから始まったのに、今ではこんなにたくさんの人に知ってもらえて、続けてきて本当に良かったです。僕を通してファッションに興味を持ってくれた人もたくさんいると思うので、そんな人たちに感謝を還元していく10年にできたらいいなと思っています。

 

■若者へメッセージを。

 

 「憧れを持て」ということですね。上の世代から学ぶことって未来と希望しかないです。憧れる人がいたら、憧れた分だけ「なぜ憧れたのか」を考えられるし、リスペクトを形に変えてほしい。それをこれからの世代に直接伝えていくのが僕の役目です。講義や講演にもぜひ呼んでください!

 

 

Interview : Sakura Tsuchiya Photo : Ewori Wada

■「ファッション力 (Fashion Ryoku)」

杉野学園出版部が発行しているフリーマガジン。2008 年 6 月より、毎回パリ プレタポルテ、オートクチュール終了時を目安に年 4 回発行。
デザイナーインタビュー、コレクション報告、スナップ、座談会などを掲載している。

 

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