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| そこで1886年、パリ・イリュストレ紙の日本特集号に林はフランス語で記事を寄稿した。 日本の歴史、風土、宗教、教育、文化、芸術などの幅広い分野に渡って正しい日本像を紹介したその書は、二万五千部と当時のベストセラーになった。ゴッホもこの書を読んだと言われている。 林が、浮世絵の販売に力を入れ始めたのは1889年(明治22年)頃だった。若井兼三郎との協同も解いて日本に本店を移し、5人の買取り専門スタッフを置いて、優れた浮世絵を探らせた。そして、林が認めた一級の芸術品にだけ品質保証の「林忠正」の小印が捺印を押して販売した。それは、現在でも作品の価値を保証するものとされている。 林は、価値観にそぐわないものは取り扱わず、客に対してもその美術品を持つにふさわしい品格を備えることを求めたという。 その後林は、1905年に日本に帰国するまでパリで二十七年を過ごし、現地をリアルタイムで体験しながら、評論家、画商印象派画家とも幅広く交流する。 このように、美術商として成功を収めた林だが、一方で「浮世絵を流失させた国賊」という評価がついてまわる。林が日本から持ち出し海外で販売した浮世絵は、実に数十万点に及ぶといわれる。 |
![]() パリ・イリュストレ ![]() 林忠正印 |
国内で安く買いつけ、海外で高値で売りさばくことでの富を築いたやり方にも批判が集まった。「日本の貴重な浮世絵を海外に大量流出させた張本人」というわけだ。この林に対する国内外での評価のギャップが、彼を「盲点の窓」の住人にとどめている原因ではないかと思う。
しかし、当時の日本では、浮世絵は放っておけばゴミ同然に捨てられてしまう運命だった。浮世絵が今海外の美術館で大切に保管されていることを考えれば、林の行為を一概に非難することはできない。また、関東大震災で灰になった浮世絵も少なくない。林がいたからこそ、消失する運命にあった浮世絵が全国から買い集られ救われたともいえるからだ。
印象派の重鎮、マネと親しんだ日本人は林一人である。
林は1905年(明治38年)の帰国に際し、500点もの印象派のコレクションを持ち帰り、自らの手で西洋近代美術館を建てようと計画したが、果たせぬままその翌年東京で亡くなった。享年52歳。
この林忠政の生涯から、私たちが学ぶべきことは実に多いと思う。
当時の浮世絵は、評価の定まった「アート」ではなく珠玉混合の「サブカルチャー」に過ぎなかった。これは現在のクールジャパンの位置付けと重なる部分が多い。
重要なポイントは、林自身が浮世絵に対する「評価軸」を持ち、それを貫き通したことにあると思う。コンテンツは売っても、「評価軸」は握り続ける。
これが林の成功の要諦ではなかったか。そして、今クールジャパンを推進しようとしている私達に圧倒的に不足している要素だと思う。
このことは、現地のマーケットをよく知り、日本美術の知識が豊富で、なおかつフランス語に堪能な林のような人物だからこそ成し得た技かもしれない。その「評価軸」には、林自身の意地と誇りと、そして浮世絵への愛が感じられるのだ。
参考文献:
Japon rêvé : Edmond de Goncourt et Hayashi Tadamasa by Brigitte Koyama-Richard
林忠正―浮世絵を越えて日本美術のすべてを (ミネルヴァ日本評伝選) 木々 康子
林忠正―ジャポニスムと文化交流 (日本女子大学叢書) 林忠正シンポジウム実行委員会
林忠正宛書簡・資料集 高頭 麻子、 木々 康子 (単行本 - 2004/8)
海を渡る浮世絵―林忠正の生涯 (1981年) 定塚 武敏
林忠正とその時代―世紀末のパリと日本美術... 木々 康子
林忠正宛書簡集―Correspondance adressee a Hayashi Tadamasa 文化財研究所東京文化財研究所
世界が尊敬した日本人(25)「クール・ジャパン」の元祖仕掛け人・林忠正 (前坂 俊之)
ジャポニスム入門 ジャポニスム学会、 ジャポネズリー研究学会
The Art of Connecting: How to Overcome Differences, Build Rapport, and Communicate Effectively with Anyone by Claire Raines and Lara Ewing
自分の小さな「箱」から脱出する方法 アービンジャー インスティチュート、金森 重樹、 冨永 星


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